お化けの思い

僕は今年の夏に少しだけお化け屋敷でバイトをした

普段は定食屋で夜からラストまでバイトをしているのだが、入ったばかりでうまく仕事がこなせずミスを連発していて”この1週間何度怒ってもサバの腹の向きを間違えていれている”という理由で西成に住んでいるガリガリのおじさんからかなり怒られたりして、家に帰ってサバを間違わずに焼くことすらできない自分の不甲斐なさや、サバを焼く機械の名前が「サラマンダー」というのだけどそんなバカっぽい機械の前で怒られてる自分の姿もあいまって風呂場で泣きそうになっていたりしていたのでちょうどいい気分転換だといった感じだった

何日かすると「リハーサルがあるから集合してくれ」とのメールが来た

指示された場所に行くともう既に何人か集まっていた。しばらくすると総括っぽいおばさんがやってきて
僕たちをお化け屋敷の中に連れて行ってくれた。

そこで僕たちは仕掛けや道順を見て回り、お化け屋敷の全体像を理解するように言われた。
電気はついていたものの、音や人形がとてもリアルで(怖いな・・)と思っていると、やがて一本の長い廊下についた。

そこで総括のおばさんが「ここのポイントで皆さんが実際に出て行ってお客さんを驚かします」と言ってわざとらしく僕らを試すような視線を向けた。
総括は廊下の横の部屋に入っていき、少しして出てきて僕たちに見事にゾンビの演技をしてみせた。
どうやらここでは僕らはゾンビにならないといけないみたいだった。
総括は一通りゾンビを終えると「では今から皆さんのゾンビのチェックをします」と言い出した
僕はまさかゾンビのチェックをいきなりされると思っていなかったので焦ったのだが、周りはすぐにそれぞれヨタヨタ歩いたりうめき声をあげたり各々のゾンビの調整に入っていった。

これは後で喋って分かった事なのだが、このバイトには芸人や役者志望の人が多く、事務所の依頼や募集からきてるのが大半らしかったのだ。

僕はただのフリーターなのですぐさまゾンビを演じきる自信などなく、隅の方でゆっくり歩いたりしてみたりや咳などで誤魔化し、めちゃくちゃ軽度のゾンビか体調の悪い人みたくして時間を潰していたらいよいよ一人一人が総括にゾンビの演技を見せる時間が来た。

どういった風にチェックするかというと、控え室の中に総括と他のゾンビがいて、チェックされるゾンビが控え室から外の廊下に出て廊下にいるスタッフを驚かす。それを控え室の中の総括と他のゾンビが備え付けのモニターでチェックするというものだった。

お化け屋敷の中も暗くなり、さあいよいよと緊張した空気の中、トップバッターに僕と同世代の20歳くらいの芸人の人がスタンバイしに行った

どんな演技を見せるのだろうとモニターを見ていたら、素人目から見てもお粗末なゾンビがそこに写っていた。
外のスタッフを驚かせ終わり、廊下からその芸人の人が控え室に戻ってきた

(これは怒られるだろうな・・)と思っていると、総括はニコニコと「まあだいたいそんな感じ!でも声はもう少し張ったほうがいいかな」
と満更でもないみたいな感じで次に行っていた

次の人を見た。
その人は役者志望の大学生だったのだけど、その演技もまあ普通のゾンビという程度だった。
僕はあれなら自分もできるなと確信した。

そこから何人かが終わり、いよいよ僕の番が回ってきた

僕はスっと立ち上がり、オンオフの演出を周りにアピールするためにわざとスラスラ歩いて廊下まで行きスタンバイをした

僕は廊下に出て、スタッフを見つけ、渾身の演技でスタッフを驚かせた

これだけしたら総括も驚くだろう。何が芸人だ。何が役者志望だ。と完全に総括に褒められる体勢で控え室に入ると何故かそこにさっきまではいなかった金髪のサングラスをかけたおじさんが立っていた。
そのおじさんは、僕を見るなり近寄ってきて僕を見たまま
「誰やこのおっさん中に入れたん?」
と言ってきた

若干19歳でおっさんと言われたショック、だいたいこいつは誰だという疑問、まず初対面だろという1歩目の怒り、全てがゴチャゴチャになって何も言えないでいるとその金髪のおじさんはさらに続けた
「だいたい何でお前ゾンビやのにジャージの短パンやねん」
言われてその時に気づいたのだが、その日の僕はジャージの短パンを履いていた。
家を出るときはまさか自分がゾンビになるとは思っていなかったのだが、確かにリハーサルに行く服装ではなかったかもしれない。
でもジャージの短パンを履いてる時にゾンビになってしまったという事も十分に考えられるし、たぶん
立場的に演出みたいな人だろうから、そういう人が想像力を否定する言葉を吐いたのがムカついて僕がそれを言おうとすると金髪は続けて
「お前足もサンダルやんけ! お前もう今日は何もやるな!」
と怒鳴ってきた。

金髪に完敗した僕は、その日のリハーサル中ずっと”ベニヤ板を裏から素手で叩いて外から聞いて不気味な大きな音を出す”
事をしていて手が真っ赤に腫れてしまった



次の日 本番に行くとその部分にガムテープがぶらさげられてた

素手で叩くと手を痛めるからガムテープの側面で叩くと良いとスタッフの人が説明していた

その日、僕だけはそこを素手で叩いた。また手がとても腫れた
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# by akuta-seiryou | 2013-10-11 07:24 | 思い出 | Comments(1)