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牛の女の子と人魚の乳歯

「この子の病気を治したいのなら人魚の乳歯を見つけてくることですな」
老鳩教授はそう言って赤い目をパタパタと閉じて聴診器を置いた。
「この子はただでさえ人間と牛のハーフの子供。ちょっとの風邪でもお薬を探すのは大変なのに、こんな難病にかかられたらいくらワシが鳩医者界で随一の天才鳩医者と言えども治すのは簡単ではありませんぞ」
そう言って老鳩教授は周りをキョロキョロ見渡した。
「それに最近はここも怪しまれていましてな。ライオン政府のやつらが人間とのハーフがおるというて探しにきてる。何、難しいことは言わんよ。北の村に行けば人魚なんざたくさんおる。そこで子供の人魚を見つけて、ちょこっと歯を持ってこれば治してやる。なあに。簡単簡単。さあさあライオン政府に見つからないうちに帰るんだよ。お代はいつものリンゴの味の甘いパンで結構なのでね。うん。それではな」
私は牛だ。そして今お医者に見せにいってた子供は私と彼の子供。彼は人間で私は牛。つまりこの子は牛と人間のハーフということ。彼は私と付き合う前に一度だけ人間の女の子と付き合っていた。彼はその女の子のことを心から信じて愛していたんだけど、結局最後は裏切られてズタボロに振られてしまったらしい。そんな彼が行く先も決めずにフラフラフラフラ北に南に西東と何日も歩いていたら私たちの住む世界に迷い込んできてしまって、そこで私と出会ったという訳。
彼とは初めて出会った時から600回言葉を交わして初めてキスをして、1000回言葉を交わしてSEXをしました。私は牛だから人間の男の人とSEXをするのは初めてですごく気持ちよくて、彼も牛とSEXするのはたぶん初めてですごく気持ちよさそうで2人はすぐに愛し合って子供ができました。でも彼は牛の私とSEXをしたから亀頭の粘膜を通して人間はかからない奇病にかかって全身が赤く腫れて苦しみながら死んでしまったのです。私はそれはそれは悲しかったけど、彼が死ぬ前に「ミエナ・・」と前の人間の好きだった女の子の名前を言っていたのが自分勝手な気持ちだけどたまらなく悲しかったです。
というわけでこの子は私と彼が愛し合った唯一の証であり一粒種なので大事に大事に育てていたのですが、人間と牛のハーフなので免疫力が弱くすぐ風邪を引いてしまうの。それで近所の老鳩のお医者さんに毎回看てもらってたんだけど、今回だけは厄介みたい。心なしかこの子の体が赤く腫れてきてる。あの人が死んだのと同じ病気で死んじゃうのかも。早く北の村に急がなきゃ。
抱っこ紐でこの子を抱っこして自転車に乗ってキコキコと私は北の村に向かって漕ぎ出しました。
電車を使っていっても良かったのですが、国鉄はライオン政府に監視されているのでこの子が万が一見つかってしまってはいけないと思って自転車で行ったのです。しかし私の住んでる村から北の村まではザッと見ても40キロはあります。私はヘロヘロになりながら自転車を漕いでいると、なんと不幸なことに目の前にライオン政府のライオン警察の保安官が立っていたのです。
「そこの子供連れの牛の女。止まりなさい」
私は内心はドキドキでしたが涼しい顔をして自転車を止めました。
「最近南の村で人間と子供を作った牛の女がいるという噂があってな・・お前は何か知らんか?」
「いいえ。なんにも」
「ほう。おや、可愛い子供を抱いてるな。ちょっとお前の子供、見せてはくれないか?」
「いいえ。見せません。先を急ぎます」
「怪しいなお前は。見せろ!ライオン警察の言うことが聞けないのか?」
私がいよいよ万事休すかと思ったその時、横から声がしてきました。
「ライオン保安官さん。その人は先を急いでいるんじゃろ?通してあげなさい」
見るとそこには身長が4メートルはある高鷲の親分が立っていました。
「うううう・・」
さすがのライオン保安官も高鷲の親分には何も言い返せません。
「ふん。はやく行け牛の女!」
私はまたキコキコと自転車を漕ぎ出しました。長い一本道をひたすら漕いでいると、よこにさっきの高鷲の親分が並走して飛んできました。
「さっきはありがとう」
「いいよいいよ。それよりそんなに急いで北の村に何のごようだい?」
「この子の病気を治したいの」
「そうかい分かった。なら俺が北の村まで運んでやるよ」
「ホントに?ありがとう!」
そう言って高鷲の親分は私の背中を自転車ごと掴んで北の村まで連れて行ってくれました。高鷲の親分に掴まれて空を飛ぶのはとても爽快でした。びゅんびゅん風が横切るのがたまらんく涼しいのです。高鷲の親分は何か喋っていましたが私は風の音で何も聞こえなかったのでうんうんと頷いていました。しばらくすると北の村が見えてきました。
「さあ。着いたぞ」
「ありがとうございます!」
「私はここで昼寝をするとしよう。さあ行きなさい。また会おう」
そう言って高鷲の親分は大きな体を折りたたんで目を閉じ、まるで死んだような静かさで眠り出しました。
私は自転車を走らせると、村の入口に「ここからさき 人魚の里」という立て看板が見えました。村に入ると人魚まったくいませんでした。おかしいなと思って自転車をすすめると、大きな池にぶちあたりした。
池につくなり私はため息を漏らしてしまいました。なぜかというと、その池の様子があまりにも美しかったからなのです。まず池のほとりには美しい人魚がところせましと微笑み談笑していました。談笑の相手は人間の男で、見るからに美しい人魚にデレデレの様子でした。そして水面には蓮の花やバラの花、たんぽぽやヒマワリが美しく咲き誇っていました。私も人魚に産まれさえすれば・・彼だって最後まで私の名前をつぶやいて死んでくれたかもしれないのに・・こんな時までそんなことを考えてしまいました。しかし今はそれより人魚の子供の乳歯です。私は人魚の子供を探すことにしました。池のほとりからは外れて森の中深くに私は入っていきました。するとやはりそこには大量に人魚の子供がいました。これはあまり知られていない事実なのですが、人魚は子供の頃から美しいのではなく大人になって初めて見違えるように美しくなるのです。子供の人魚はとても醜く、目は黒目ばかりギョロギョロと大きく口はカエルのように大きく口の中は歯がびっしりと生えています。身長は子犬くらいで人魚らしい尻尾はまだなく短い手足が胴体から生えていてそれでノロノロとゴキブリのように歩きます。その姿は想像するのも難しいくらい醜くて、人魚たちもその醜さを理解して恥じているので森の奥でこっそりと育てるのです。そしてご飯には川から魚をとってきてあげておいてあげ、それをムシャムシャと食うのです。私はどの子供の歯を取ろうかと品定めをしました。すると中に一人、ひ弱そうな人魚の子供がいたのでその子に狙いを定めて乳歯を頂くことにしました。
「ごめんね」
私はそう言うと人魚の子供の口に手を入れて前歯の乳歯をへし折ろうと力を込めました。すると人魚の子供は「ギャアアアアアアアアア!!」と汚い声で叫び出しまた。
「お願い静かにして!1本だけでいいの!私とあの人のために!ね!お願い!」
どれだけ力を入れても歯はなかななか折れません。人魚の子供も叫ぶのをやめません。
しばらく歯と格闘していると、ふいにポキっという感触がして歯が折れました。人魚の子供もそのころには絶叫をやめていました。私は乳歯をカバンに入れるとさっそく帰ろうと後ろを振り向きました。するとそこに一人の美しい人魚と半裸の美しい人間の男が立っていました。美しい人間の男がワナワナと震えた様子で私に喋りかけました。
「おい牛女。お前・・俺たちの子供に何をした?」
「え・・いや・・」
「答えろ!何をした!」
「いや、乳歯を、1本頂いただけで・・」
「何のためにだ!」
「ほら!この子の病気を治すためで!」
私はそう言って抱っこ紐の中のこの子を美しい人間の男に見せました。この子は来た時より数倍赤く膨らんでいました。
「うわ!醜いものを見せるな!獣め!」
「醜いって、この子は私と彼の愛の証なんです!」
人魚の女が憎々しげに私を睨んで呟きました
「頭が変よ・・この女」
「ああそうだな」
美しい人間の男はパンツの中から拳銃を取り出しました。
「おい女。お前が死んでもな、この子の歯は治らないんだぞ」
そう言うと美しい人間の男は私めがけて引き金を引きました。拳銃の弾はズドンと私の胸を射抜きました。
「さあ行こう。怖かったな。大丈夫だ。歯はまたすぐ生える」
人魚の女と美しい人間の男性が子供を抱いて森の奥に消えて行きました。私は薄れる意識の中でそれをジッと見ていました。抱っこひもの中の私の子がギュッと私を抱きしめてきました。私は抱き返したかったのですが力が足りませんでした。
by akuta-seiryou | 2014-08-11 23:03 | 色々


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