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中学校の日々

前回は須藤に教室の後ろに呼び出されるところまでを書きました。今回はその続きから書いていきたいと思います。


僕は須藤達に教室の後ろに呼び出され、震えながら進んで行きました。近くで見るその軍団は、明らかに僕がいた小学校などにはいないタイプの人達で、体がゴツゴツとしていてそれぞれがつけているシーブリーズの甘い匂いが暴力を連想させました。入学初日に目をつけられた、もう終わった、と思っていると真ん中の須藤が僕に「ハンコ持ってる?」と言ってきました。直接的な暴力のみを予想していた僕は、ハンコ持ってる?という問いにさらに深い恐怖を感じました。なぜ中学生の最初の会話が「ハンコ持ってる?」なのか。怖すぎます。こいつの生きてきた世界の中で練り上げられた最悪のいじめを受けるんじゃないか、と判断した僕は「ハンコないと思う」と言いました。ただ、この嘘はすぐにバレてしまう嘘だったのです。


入学初日に書類にハンコを押すためにハンコを持ってきてください、というアナウンスが学校側からあったため、持ってきていないということはほぼないんです。案の定「あるやろが!!ええから持ってきてや」と言われ、僕はクラスに戻りハンコを取りに行くことになりました。言われるがままにハンコを取りに行き、須藤達のところまで持っていくまでの間、楽しかった小学生の頃を思い出しました。穏やかだったあの日々は終わり、僕は中学という戦場に飛び込んだのです。


階段を下り、須藤に「ハンコ持ってきたで」と言うと「貸してや」と言われ、僕の手からハンコを奪いました。ハンコを奪われた事に強く不安を感じました。何か事前に作っていた書類に無理やりハンコを押されるんじゃないか。僕は小さい頃からよくミナミの帝王を見ていたのでハンコの重要性に関しては理解していました。


終わった、油断していた、と思うと、須藤は横にいたヤンキー友達に「ほい」とハンコを投げてキャッチさせました。するとそいつらはニヤニヤ笑いながら僕のハンコでキャッチボールを始めました。「返してほしいやろ」と言いながら、そいつらはハンコを回し続けています。僕は内心深く喜びました。


3年間徹底的にいじめ抜かれても文句は言いません、などと言った怖い文言が書かれた紙にサインされることまで想像していたので、ハンコキャッチボールというミニゲームのような遊びで済んでいることは幸運以外の何物でもありませんでした。


それでも僕は喜んでいたらさらにひどいことをされるだろう、という勘に基づき「もうええって!返してや!」とコミカルに動きながらハンコを奪う振りをし続けました。ここでもしハンコをすぐに奪ってしまったら、遊び足りない須藤達がさらに過激な遊びを思いつく可能性があるので、ある程度本気で返してほしがっているように見せつつ、本当にハンコを奪うことはないギリギリのラインを保ち続け、休み時間のタイムアップを狙うという作戦に出たのです。


後述することにもなりますが、僕はこの感覚を活かして3年間を生き抜きました。「ギャラリーが少ない時は大げさに、ギャラリーが多い時はひかえめに」というヤンキーからの絡みによる被害を最小限に抑える術なども生まれていきました。これに関してはまた書くことになるでしょう。


とにかく須藤達は、僕の計算され尽くしたハンコ奪い芸に完全に手玉にとられていました。動きだけでは須藤達の心を心を掴み続けれないと判断した僕は合間合間に「めっちゃ汗でてきた」「どんなスポーツやねんこれ!」などと状況にツッコミのようなものを入れて、ハンコを奪おうとしているおもしろさ+僕の発言のおもしろさを加えることで、どんどんとハンコを返さないというのがいわゆる"ノリ"のようなものになっていくことを狙いました。そしてそれは狙い通り、最初の緊張感をはらんだ雰囲気より圧倒的に和やかなものになっていきました。そうしていると、予想通りチャイムが鳴りました。


歓喜しました。あとは区切りがついたこの遊びの終わりとして、ハンコを返してもらうだけと思っていると須藤が「また放課後な」と言って僕のハンコをポケットに入れました。絶望しました。ここまでは予想していなかったのです。あまりに楽しませすぎたことで、まだこいつは味がする、と判断されてしまったのです。深い後悔に浸りながら、僕は教室に戻りました。


放課後、須藤達は僕のクラスの前にいました。ハンコを捨てて骨を断つ作戦も考えていたのですが、そんなことはできないようでした。


須藤達は僕をグラウンドの裏側のようなところに連れて行きました。そこは生徒もおらず、教師が来ることもない、中学における完全なストリート部分でした。僕と須藤達しかいない、このことはとても重大な要素でした。


僕がクラスであんな立ち回りをできたのは、他のクラスメイトがいること、もしかしたら教師がくるかもしれないという可能性があること、この2つがあることで成立している舞台だったのです。ピエロは観客の前でしかおどろけることはできません。舞台を降りたピエロに支配人がどのような言葉を向けるのか、その感覚に近いのではないでしょか。


案の定、彼らは皆ローテンションでした。誰かがおどける雰囲気ではありません。僕はベンチに座らされ、須藤達と喋る事になりました。「おまえどこの学校やったん?」から始まる会話をこなしていき、やがて沈黙になりました。僕はこの雰囲気は大いによくない、と思いました。おそらくは須藤達は、僕を中に取り込んで、パシリのような存在にしようと目論んでいるのではないかと思いました。いや、須藤にそのような思いがなかったとしても結果的にそのような存在になってしまう可能性が大いにありました。


この仲間感の中にいてはいけない。僕は強くそう思いました。すると、須藤が「なんかギャグやれや」と言ってきました。僕はここがチャンスだ、と思い、平然を装って須藤に「わかった。じゃあハンコかして」と言いました。須藤は少し躊躇いましたが、僕にハンコを渡しました。僕はハンコを手にしてアポロのギャグをやりました。その後、自分でハンコを思いっきりグラウンドの方に投げました。須藤達が呆気に取られている間に僕は「アポロー!!!!」と叫んでグラウンドに投げたハンコを拾いにいきました。それによりストリート部分から脱出することができた僕は、その場所から「帰るわ!また!」と言って手を振り、何かを叫んでいる須藤達の声を背にダッシュで家まで逃げ帰りました。


家に帰り、扉を閉めた瞬間、生きている実感がどっと襲ってきました。


初日が終わりました、これからどのようになっていくのか、次回をお楽しみに待っていてください。


by akuta-seiryou | 2020-04-28 17:03 | 生きた記憶 | Comments(0)


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