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梅雨の始まりから終わり


私は汗と梅雨のせいで蒸れた部屋の中を見渡し、冷蔵庫に目をやった。冷蔵庫の中に鶏肉が残っているのを覚えていた。少し歩くと何かが足にぶつかり、また歩くと何かがぶつかる。スーパーやコンビニの袋のようなものもあれば、空箱のようなものもある。冷蔵庫を開けると、案の定鶏肉が残っていた。包丁があったはずだ、と思い流しのところまで行くとやはり包丁があった。鶏肉を置き、包丁を入れるが、なかなか切れない。錆びているのだろうか、力を込めても肉に重く切れ目が入るだけで、思うように切れない。包丁を買いにいかなければならない。私は冷蔵庫に鶏肉をしまい、靴を履き、外に出た。近所のホームセンターに着くと、私はまずマップを見て包丁売り場を確認した。包丁売り場は一階にあり、今いる場所から歩いて端のところまでいけばあるようだった。包丁売り場へ着くと、中学生らしき少年が睨みつけるように包丁を選んでいた。やがて少年は一つの包丁を手に取ると、スタスタとこちらに歩いてきた。黒髪の色の白い少年で、やはり目だけが変わらず睨みつけるように鋭い。すれ違い、思わず振り返ると、少年は手元を見ずに防犯用につけられた丸いタグを器用に外し、それを床に落とし、そのまま外へと出て行った。


私は思わず外へ出た。少年は駐車場を抜け、どんどんと外へ歩いていっている。私は後ろをついたまま追いかけた。追いかけるごとに体が熱くなっていくのがわかった。体の中に血が流れている。少年は包丁を盗んだのだ。私は少年の世界を壊さないように、離れた場所から少年を追い続けた。少年は、公園に入っていった。どこにいくのだろうかと見ていると、少年は公園の真ん中にある大きな公衆便所の男子トイレの中に入った。私は何気ない顔をし、さも小用をたしにきた振りをして少年の世界の中に接触しようかと考えた。その黒髪や肌の白さの理由をまじまじと手に取り、眺め、アンモニアの匂いと現実を混ぜ、梅雨の湿気にまみれた行為を理解しようとすることは、とにかく醜いように思えた。そうして私が少し離れたところからトイレを見ていると、中から少年と、少女が出てきた。少年と少女は横並びで歩き、何か笑い話をしながら公園の外に出て行った。急いで私はトイレの中に駆け入り、個室の扉の一つをあけると、その貯水タンクの上にはまさしくあの包丁が置いてあり、切っ先には一粒の丸い血が付いていた。私は思わずその包丁をポケットの中に隠し入れ、長袖のTシャツの布を伸ばしそれを隠し、家へ持ち帰った。


家へ着き、肉に包丁を入れるとするりと刃が入った。私は包丁で少しだけ指の先を突いてみるかと悩んだが、とうとうそれをすることはできず、今年の梅雨終わってしまった。


by akuta-seiryou | 2020-05-21 02:26 | 小説練習 | Comments(0)


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